神経内科

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目次

神経内科とは?—その1

 日本では「神経内科」という標榜科を用いますが、元々、欧米ではNeurology(神経学)と呼びます。日本神経学会(Japanese Society of Neurology)という学会名もそこから由来しています。

 神経学(Neurology)は臨床に重点をおいたNeuroscience(神経科学)の一分野であり、脳神経外科(Neurosurgery)や精神科(Psychiatry)・心療内科や整形外科(Orthopedics)や小児科(Pediatrics)や耳鼻咽喉科(ENT)や眼科(Ophthalmology)やリハビリテーション科(Rehabilitation)などと境界領域を共有する、非常に広範な領域を対象とする学問です。したがって、本来、神経学/神経内科(Neurology)は単に内科学(Internal Medicine)の枠に収まるものではありません(もちろん、内科学全般にわたる基本知識と技術が必須です)。

 実際、欧米では神経学(Neurology)は独立した基本単位です。神経内科と称して内科の下位分類(subspecialty)に矮小化されているのは日本だけのようです。当院では、この本来の神経学(Neurology)の精神に則って日常診療することを目標にしています。

 こう聞くと、神経内科とは取っ付きにくいような、少し怖いような印象を持たれるかもしれませんが、実は、日常、誰にでも起こりうる症状を扱う科なのです。

たとえば:

  • 頭痛
  • けいれん・てんかん発作
  • 歩きにくい・つまずきやすくなった・脚が突っ張る
  • 手足に力が入らない
  • 筋肉がピクピクする・筋肉が急にやせてきた
  • 手足がしびれる・感覚が鈍い
  • めまい・立ちくらみ・ふらふらする
  • 物が二重に見える・瞼が下がってきた・瞼が開かない
  • 視野が狭くなった
  • 体が傾く・体を動かすのに時間がかかる・動くのが億劫だ
  • 手が振るえる・体が無意識に勝手に動いてしまう
  • ろれつが回らない・言葉が出にくい・思うように話せない
  • 人の話がわからない
  • 食物が飲み込みにくい・むせる顔が歪む
  • 物忘れ・計算間違いが多い
  • 不眠・早朝に目が覚める・いびきをかく
  • 気分が晴れない・イライラする・集中できない等々

思い当たる症状はありませんか?


 多くの方がこれらの症状のうち1つや2つを経験されたことがあるのではないでしょうか。これらを診察するのがまさに神経内科なのです。もちろん、これらのすべてが病的なものとは限りませんが、中には治療を要する重大な病気が背景にあることもあります。

  • 頭痛(片頭痛・緊張型頭痛・群発頭痛など)
  • 認知症(アルツハイマー病血管性認知症レビー小体型認知症など)
  • 高次脳機能障害(実行機能障害・注意障害・失語・失行・失認など)
  • 精神疾患や知的障害や発達障害(気分障害・せん妄など)
  • 不眠症や睡眠時無呼吸症候群めまい(頭位めまい症・前庭神経炎など)
  • 脳卒中(脳梗塞・脳出血・くも膜下出血など)
  • 中枢神経系感染症(脳炎髄膜炎脳膿瘍など)
  • 脳腫瘍
  • 頭部外傷や頭蓋内出血(急性・慢性硬膜下血腫または硬膜外血腫・正常圧水頭症など)
  • てんかん
  • パーキンソン病および関連疾患・脊髄小脳変性症・運動ニューロン病(筋萎縮性側索硬化症・脊髄性筋萎縮症など)などの神経変性疾患
  • 神経免疫疾患および膠原病(多発性硬化症・ギラン-バレー症候群・重症筋無力症・SLE・関節リュウマチなど)
  • 先天性代謝性疾患(糖原病・スフィンゴリピドーシスなど)
  • 後天性代謝性疾患(下垂体機能低下症・甲状腺機能亢進症または低下症・副甲状腺機能亢進症または低下症など)
  • 筋疾患(各種の筋炎・筋ジストロフィー・筋無力症など)
  • 骨格系疾患(頸椎症性神経根症・頸椎症性脊髄症など)等々


 枚挙に暇がありません。言うまでもなく、これらの病気をすべて神経内科だけでまかなうことはできません。境界領域の専門他科とも協力しながら診療に当たります。

 このように日常のありふれた症状の背後にある本当の原因を的確に診断し治療方針を決定するために、まず始めに中心的役割を果たすのが神経内科医(Neurologist)なのです。思い当たる方はまず一度、神経内科専門医を訪れてご相談されてはいかがでしょうか。ちなみに、全国の神経内科専門医を日本神経学会ホームページから検索できますのでご参照ください。

神経内科とは?—その2

 神経内科(Neurology)とはどのような科なのか?を説明するときに、たとえば、精神科(Psychiatry)や心療内科との違いが強調され、神経内科(Neurology)は脳や神経や筋に何らかの病理的器質的異常を伴う疾患を扱うが、精神科(Psychiatry)や心療内科は“心の問題”を扱い通常の検査では身体的異常は認められない、というような説明がしばしばされます(心療内科では心の問題が原因で生じた身体的異常を扱います)。しかし、神経科学(Neuroscience)の進歩に伴い、その境界はいい意味で曖昧になりつつあります。統合失調症や気分障害や自閉症スペクトラム(ADS)といった代表的な精神疾患または発達障害の原因や病態生理が遺伝子や分子生物学のレベルまで遡って解明されるようになってくると、以前は機能的異常または生育歴や環境要因(家庭環境や教育環境など)が主因だとされ、いわゆる器質的異常が見つからなかった病気についても、いわゆる生物学的検査で異常が捕まるようになって来たからです。つまり、“心の問題”の少なくとも一部が“物質の問題”となってきたのです。
 その良い例が自閉症スペクトラム(ADS)です。この疾患は児童精神医学が扱うべきものなので日常診療の神経内科の範疇を超えており私の臨床家としての専門でもないので詳細を述べることはできませんが、この分野のブレイクスルーとなった特筆すべきことは、ADSの原因としてニューレキシン/ニューロリガン(Neurexin/Neuroligin)系の遺伝子変異が2003年に報告されたことです(Jamain S. et al. Nat. Genet. 2003 May; 34 (1): 27-9.)。それまでの疫学研究から遺伝性ADSの存在は知られていましたが、初めてその遺伝子異常が同定されたのです。まさに、ADSが教育や家庭環境の問題から独立して生物学的問題となったのです。もちろん、その疾患を抱えた人に対してどのように対応すべきかという問題は残りますが、少なくとも原因に関して生育歴などを議論することはほとんど意味を持たなくなりました。

 

 少し話が脱線しますが、ニューレキシン/ニューロリガン(Neurexin/Neuroligin)系は広い意味でいう細胞接着因子の1つです。上記の論文を発表したのは別のグループですが、元々、ニューレキシン/ニューロリガン(Neurexin/Neuroligin)系は、その当時テキサス大学サウスウエスタンメディカルセンターにいた(現在はスタンフォード大学に移っていますが)トーマス・スードホフ教授(Thomas C. Südhof)のグループが、神経細胞のシナプス伝達に関わる分子として発見したのが始まりです(Ushkaryov YA et al. Science 1992 Jul 3; 257 (5066) 56-6.)。彼(Tom)はシナプス伝達に関わるシナプス小胞のエクソサイトーシスの分子メカニズムの解明に関する功績で2013年にノーベル医学生理学賞を受賞しました。実は、私は1995年から1997年の3年間、Tomのラボへポストドクトラルフェロー(ポスドク)として留学していました。そのときの私のフェローシップ(研究助成金)応募のテーマが「ニューレキシン(Neurexin)のリガンドの同定」というものでした。このニューレキシン(Neurexin)のリガンド(タンパク質間相互作用をする相手方という意味)こそ、ニューロリガン(Neuroligin)のことですが、私が実際にラボに加わった1995年1月にはすでにニューロリガン(Neuroligin)がすでに在籍していたロシア人のポスドクによって発見されており論文執筆の準備がされていましたので私の研究テーマは変更になりましたが、ミント(Mint)その他の新しい分子をいくつか発見することができました(院長紹介をご参照ください)。その当時の私はニューレキシン/ニューロリガン(Neurexin/Neuroligin)系の発見とその発展のみならず、シナプス伝達の分子メカニズムが次々に解明されていく世界最先端のノーベル賞に値する研究環境の真っただ中にいて、たいへん楽しく幸せな基礎研究者としての時間を過ごせるという幸運に恵まれました(私も微力ながらそこに多少とも貢献できたと自負していますが)。基礎研究を離れ一人の臨床家になった今でもその当時のことを懐かしく思い出します。妻と幼い子供2人を連れて家族4人で過ごしたテキサス州ダラスをはじめ米国での経験は我々家族の一生の宝であり、人生の転機にもなっています。ちなみに、私がTomの指導の下で新たに発見同定したミント(Mint)ファミリーがアルツハイマー病に重要な関わりのあることが最近認められつつあります。アルツハイマー病の真の原因や病態生理が明らかになるにつれ、ミント(Mint)ファミリーの重要性がますます注目されるようになると私は確信しています。

 

 患者さんが現実に抱えている苦痛 —たとえば、頭痛、めまい・フラフラ感、歩行障害、不眠、不安・焦燥感、うつ気分・意欲低下、幻覚妄想(とくに夜間)、もの忘れ— こういった精神症状の本当の原因が実は、多発性ラクナ脳梗塞や慢性脳循環不全によることもあります。これは、突然、身体半身が麻痺するような急性脳卒中とは異なりますがやはり脳血管障害の一種です。また、大脳白質の特殊な一種の炎症によることもあります。それらの症状が神経内科(Neurology)が扱うべきものなのか、あるいは精神科(Psychiatry)が扱うべきものなのかを診断すること、まさにそのことが神経内科診察の入り口なのです。

TEL:0120-677-692