頭痛

女性の片頭痛

月経と片頭痛

月経と片頭痛わが国における一般住民を対象としたある疫学調査によれば、片頭痛の有病率は女性12.9%、男性3.6%と、女性が男性の3倍以上多く特に20—40歳代の性成熟期の女性に有病率が高く、その多くが月経と何らかの関連を持つ前兆のない片頭痛であると言われています。国際頭痛分類では、

  1. 前兆のない純粋月経時片頭痛(片頭痛発作が月経開始日±2日にのみ生じるもの)
  2. 前兆のない月経関連片頭痛(上記の時期に加え、その他の時期にも片頭痛発作を認めるもの)
  3. 前兆のない非月経時片頭痛(片頭痛発作が月経と関連がないもの)

の3つに分類しますが、このうち②が最も多い型です。月経時の片頭痛は他の時期に比べ持続時間が長く、痛みが強く、再発しやすい、治療抵抗性である、などの特徴があります。

 “月経時になぜ片頭痛が起こりやすいのか?” その理由の1つとしてエストロゲンの血中濃度の高い状態が続いた後で急激に低下すること、すなわち、エストロゲンの離脱によって誘発される可能性が考えられています。エストロゲンは脳血管拡張作用の他、種々の脳内神経伝達物質に影響を与えることが知られており、興奮系(グルタミン酸など)と抑制系(GABAなど)の不均衡が片頭痛の誘発に関係する可能性が考えられています。

 月経時の片頭痛の治療は、原則としてその他の時期の片頭痛の治療法と同じですが、その特徴を考慮して血中半減期の長い(効果持続時間が長いと期待される)トリプタン(アマージ®など)を選択する、トリプタン単独では鎮痛効果が十分でない場合にはNSAIDs(ブルフェン®、ナイキサン®など)を併用する、などの工夫が必要です。また、月経周期と片頭痛発作の起こる時期が毎月ほぼ一定の方では、月経数日前から月経中にかけて5〜7日間、持続時間の長いトリプタンやNSAIDsをうまく組み合わせながら服用を続ける短期予防療法を試みることもあります。

 多くの方は月経時以外にも片頭痛発作のある月経関連片頭痛であり、発作日数が多い場合は通常の片頭痛と同様に予防薬を毎日服用することになりますが、妊娠を希望される方は注意が必要ですので頭痛専門医にご相談ください。

妊娠・出産と片頭痛

妊娠・出産と片頭痛 前兆のない片頭痛は、妊娠第2・3期では妊娠前に比べ一般に発作が改善する傾向がありますが、妊娠初期に悪化する例や、まれには妊娠中に片頭痛が初発する例もあります。そして出産後1ヶ月以内に約半数の方が再び片頭痛発作を経験されるようです。一方、前兆のある片頭痛は、前兆のない片頭痛に比べ妊娠中の改善率が少ないと言われています。

 さて、妊娠・授乳中の薬物治療が胎児・乳児に及ぼす影響について不安を感じていらっしゃる方が多いと思いますので基本的なことをご説明しましょう。

 “All or Noneの法則”─ 受精後2週間以内に薬剤の暴露を受けた場合は、着床しないまたは流産する、または逆に、完全に修復されて健児を出産する、という法則です。したがって、月経周期が規則的であれば、一般的な片頭痛治療薬では予定日に月経が来ないと気づいた時点(排卵から約2週間)で中止すれば、通常、問題はないと考えられます。

 一方、妊娠4−7週は器官形成が活発で催奇形の危険が高い絶対過敏期ですから、原則としてこの時期には積極的な薬物療法を行いません。妊娠5ヶ月以降は奇形の心配はほとんどありませんが、胎児への薬物移行による胎児毒性が問題になります。
“授乳について ”─ 片頭痛治療薬が母乳に移行する量はきわめて少なく、薬を飲むからといって絶対に授乳を諦めなければならないというわけではないと考えられます(ただし、ほとんどすべての薬の添付文書には、服薬するなら授乳を控えるよう指示されています)。授乳してから服薬すればより安全ですし、搾乳しておけば、いざという時いつでも服薬可能です。

 妊娠・授乳中の薬物は治療の必要性・有益性と母子の安全性を天秤にかけて必要最小量をできるだけ短期間使用するのが原則です。また、リラクゼーション療法など非薬物療法を積極的に活用してください。比較的安全に使用できる薬剤もありますが、実際にどのように治療していくかは患者さんごとに異なりますので産科および小児科主治医、および頭痛専門医にご相談ください。また、参考になる情報として国立成育医療研究センターの「妊娠と薬情報センター」もご参照ください。

“インドメタシン反応性頭痛”とは?

 頭痛は大きく一次性頭痛(他の疾患に続発したのではなく頭痛自体が独立した疾患であること)と二次性頭痛(他の疾患に続発したもの)に分類します。一次性頭痛の代表が片頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛です。一方、これとは異なる視点からの分類で「インドメタシン反応性頭痛」と称される一群の頭痛があります。他の多くの鎮痛剤が無効でありながらインドメタシンが著効するというちょっと変わった頭痛です。その理由はよくわかっていませんがインドメタシンが著効するのでこれを知っておくと便利です。

発作性片側頭痛

三叉神経・自律神経性頭痛の1種です。片側の眼窩、眼窩上部または側頭部に強い痛みが発作性(1回の発作は2〜30分持続、1日に数回以上)に生じます。頭痛と同側の顔面に結膜充血または流涙(あるいはその両方)、鼻閉または鼻漏(あるいはその両方)、眼瞼浮腫、縮瞳または眼瞼下垂(あるいはその両方)など副交感神経刺激症状を伴うのが特徴です。インドメタシンで完全に予防できることが診断基準に含まれるぐらい著効します。女性に多く、飲酒により誘発されません。

持続性片側頭痛

これも三叉神経・自律神経性頭痛の1種です。上記の発作性片側頭痛と似ていますが、頭痛が発作性ではなく持続性で、しかも3ヶ月以上続くものです。女性に多いのは共通です。診断基準にやはりインドメタシンで頭痛が完全に消失するという要件が含まれていますが実際には著効しない例もあるようです。

一次性穿刺様頭痛

主として三叉神経第1枝領域(眼窩周囲、側頭部、頭頂部)に生ずる穿刺様頭痛(刺されるような鋭い激しい頭痛)で、1回の持続時間は数秒以内、1日1回〜多数と不規則な頻度で発生します。三叉神経・自律神経性頭痛とは異なり頭痛以外に随伴症状がありません。やはり女性に多く、片頭痛や群発頭痛を併存症として持つ患者さんが多いようです。従来、この頭痛はまれな疾患と考えられていましたが、実際には比較的多い可能性が指摘されています。トリガー(痛みが生じるきっかけ、誘因)が明確でない三叉神経痛と鑑別が困難なこともあります。

一次性咳嗽性頭痛

咳やいきみによってのみ突然誘発されるまれな頭痛で、持続時間は1秒〜30分。痛みの性状は爆発的、鈍痛、拍動性、穿刺様など様々です。高齢男性に比較的多いと言われています。咳嗽性頭痛にはこの一次性咳嗽性頭痛のほかに症候性(二次性)咳嗽性頭痛があり、その原因の約40%はアーノルド・キアリ奇形I型(Arnold-Chiari malformation type I)とされます。ちなみに、アーノルド・キアリ奇形I型は先天的に下垂した小脳扁桃が延髄〜頚髄上部を圧迫するとともに、脊髄空洞症を合併することもある先天性疾患です。

一次性労作性頭痛

持続的な運動中または運動後に誘発される、主に両側性拍動性頭痛で、若年女性に比較的多く、片頭痛の合併率が高いことが知られています。症候性(二次性)労作性頭痛はくも膜下出血、動脈解離、心筋虚血後にも生じることがあるので注意が必要です。

性行為に伴う一次性頭痛

性行為中に起こる鈍痛または爆発的な、通常両側性で後頭部に強い頭痛です。持続時間は1分〜24時間と様々です。正確な有病率は不明ですが性行為前のインドメタシン内服が予防に有効とされています。器質的疾患に続発する症候性頭痛の除外診断が重要です。

前庭片頭痛(VESTIBULAR MIGRAINE)とは?

前庭片頭痛(VESTIBULAR MIGRAINE)とは? 前庭片頭痛(vestibular migraine)は従来から専門家の間ではその存在が注目されていましたが、最新の国際頭痛分類(ICHD-IIIβ)でも付録に取り上げられました。
この病気は、現在片頭痛を持っている人またはかつて持っていた人に、中等度から重度の回転性めまい(spontaneous vertigo, positional vertigo, visually induced vertigo, head-motion-induced vertigo)や頭位変換により誘発される嘔気を伴うめまい感(head motion-induced dizziness with nausea)といった前庭症状の発作(5分〜72時間持続)が併発するものです。必ずしも毎回のめまい発作に片頭痛を伴う必要はありません(めまい発作の半分以上に片頭痛を伴う必要があります)。

 前庭片頭痛(vestibular migraine)は全人口の約1%が罹患していると推計されるほど、他のいかなる前庭疾患よりも最も頻度が高く ─たとえば、有名なメニエール病のおよそ5−10倍多い─ めまいを訴える患者さんの約1割、また、逆に片頭痛患者さんの約1割がこの前庭片頭痛(vestibular migraine)だとする報告もあります。なぜ片頭痛と前庭症状が併発するのか、その詳しい病態生理が現在さかんに研究されていますが、中枢性前庭系を含む神経経路とそれを修飾する青斑核や縫線核(脳幹部にあるノルアドレナリンやセロトニン神経伝達系の中心となる神経核)の働きが重要なようです。

 めまいを感じると多くの患者さんがまず耳鼻科を受診されますが、めまいの原因として最も多いこの前庭片頭痛(vestibular migraine)は神経内科が扱うべき病気であると考えています。

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